東京高等裁判所平成29年2月21日

原審を維持し,子の連れ去りについて,「その行動には、未成年者の監護養育を第一に考え、夫婦間で真摯に話し合い、関係の修復に努力しようとする姿勢はみられず、別居を決めるに際して未成年者の福祉を考慮したとは認められない。」と判示しています。
夫婦には同居義務があり,共同親権状態でもあります。
正当な理由のない一方的な子の連れ去りは,同居義務に違反し,他方の親に対する親権侵害行為でもありますので,このような行為が子から軽蔑されるようになるのも当然のことでしょう。
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被告人 X
代理人弁護士 野口容子
相手方 Y
代理人弁護士 島田直樹
同 夏井翔平
未成年者 A

主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理由
第1 事案の概要
本件は、相手方が、別居中の夫であり未成年者を事実上監護している抗告人に対し、未成年者の監護者を相手方と指定し、未成年者を相手方に引き渡すよう求める事案である。
原審は、相手方の申立てを全部認め、未成年者らの監護者を相手方と定め、抗告人に対し相手方に未成年者を引き渡すよう命じた。
抗告人は、これを不服として抗告し、原審判を取り消し、本件を横浜家庭裁判所横須賀支部に差し戻すとの裁判を求め、その理由として、抗告人は相手方から度重なる暴言や暴力を受けていたため、危害から守るとともに未成年者の健全な育成のために未成年者を伴って家を出たのであって、違法な連れ去りではない、同居中の未成年者の主たる監護者は抗告人であった、相手方と未成年者とは関係が希薄である、抗告人との現状の生活は未成年者の福祉に適っていると主張した。

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所も、未成年者の監護者を相手方と定め、抗告人に対し相手方に未成年者を引き渡すよう命じるのが相当であると判断する。その理由は、次のとおりである。

2 記録によれば、次の事実が認められる。

(1) 相手方(昭和61年(以下略)生)と抗告人(昭和56年(以下略)生)は、平成24年3月14日に婚姻し、平成25年(以下略)、未成年者をもうけた。相手方、抗告人及び未成年者は、千葉県B市で、3人で暮らし、未成年者の監護は、専業主婦である相手方が主に行い、植木職人見習いとして勤務していた抗告人は入浴や寝かしつけを手伝っていた。

(2) 相手方は、平成26年10月、宝飾品販売会社に就職してC市にある店舗で働き始め、未成年者は、保育園に預けられるようになった。未成年者の監護については、食事作りと朝の世話、保育園への送りは相手方が行い、保育園の迎えと夕方以降の世話(夕食は相手方が作り置いていた。)は抗告人が行うことが多く、保育園の連絡帳記入は分担するなど、相手方と抗告人が協力して行っていた。

(3) 相手方、抗告人及び未成年者は、平成27年3月にB市内に転居した。相手方は、同年8月にそれまでより自宅に近い千葉県D市の店舗勤務になったが、同年10月には店長になり帰宅時刻が遅くなったため、未成年者と過ごす時間が少なくなった。相手方は、228年4月、希望して短時間勤務になり、夕方以降の未成年者の監護も行うようになった。未成年者は順調に成育し、抗告人及び相手方との関係はともに良好であった。

(4) 抗告人は、平成28年5月18日、相手方が自宅にいない間に、相手方に告げずに、未成年者を連れて自宅を出た。抗告人は、相手方に連絡せず、転居先を教えなかった。
抗告人と相手方は、平成26年ころから、抗告人の仕事や収入の問題が原因で喧嘩になることがあり、平成27年末ころからは喧嘩が多く激しくなっていたが、この日まで別居等が話題になることはなく、相手方は、平成28年4月には抗告人と相談した上でローンを組んで1戸建ての家を購入したばかりであり、抗告人が家を出ることを全く予想していなかった。

(5) 相手方は、平成28年6月15日、本件家事審判の申立てをした。

(6) 未成年者は、平成28年5月以降、神奈川県にある現住居のアパートで、抗告人と2人で暮らし、同年7月から、現住居近くの保育園に通っている。抗告人は、食事作りなど未成年者の監護を行い、千葉県上市に住む抗告人の母が月に1回1週間程度滞在して監護を手伝っている(抗告人の父は医師として働いている。)。抗告人の伯父夫婦が近くに住んでいる。
未成年者は、抗告人と2人暮らしになった以降も順調に成育し、抗告人との関係に重大な問題はみられず、保育園での生活も問題ない。
ただし、同年8月25日早朝、近隣住民から児童相談所に対し、たびたび子供の泣き声と男性の怒鳴り声が聞こえ、今日も聞こえる旨の通告があり、翌日、児童相談所職員が抗告人宅を訪ねたことがあった。
抗告人は、同年4月末に仕事を辞め、両親から援助を受けていたが、同年8月に就職した。

(7) 相手方は、現在、肩書地にある実家で両親と生活し、仕事を続けている。相手方の両親は、平成28年5月まで、相手方、抗告人及び未成年者の住む家をしばしば訪れ、未成年者との関係は良好であった。相手方は、未成年者を引き取った後も実家で両親と暮らすつもりであり、その場合、両親から監護の援助を受けることができる。

3 以上に基づき検討する。
(1) 相手方は、未成年者出生後、専業主婦として未成年者の監護を行い、就職した後は抗告人と協力して監護を行い、この間も食事作りは専ら相手方が行い、短時間勤務に変更後は監護の時間が増えていたのであり、抗告人と同居中は主たる監護者であったと認められる。相手方と未成年者の関係は良好で、未成年者は順調に成育していたことも併せると、相手方には監護者としての実績、継続性があり、十分な適格があると認められる。
これに対し、抗告人は、相手方が未成年者の前でも抗告人に対して暴力をふるい暴言を吐き、未成年者にも影響を及ぼしていたと主張する。しかし、記録によれば、相手方が抗告人に対してメールで感情的な表現を送信した事実は認められるものの、夫婦間の口喧嘩の域を出るものではなく、「配偶者からの暴力(DV)」に該当するような暴言、暴力があったとは認められないし、未成年者の前で激しい口論が繰り返されていた事実も認められず、相手方の監護者としての適格に疑問を抱かせるような事情はうかがえない。抗告人は、相手方と未成年者との関係が希薄であったとも主張するが、同居中に関係が希薄であったような事情は認められない。未成年者が相手方と離れて生活している現状において相手方の話をしないとしても、関係が希薄であることを示すものではない。

(2) 抗告人は、平成28年5月以降、未成年者を監護し、未成年者の成育や生活に未成年者との間に重大な問題はみられない。抗告人は、相手方との同居中の平成26年10月から平成28年3月ころまで、夕方以降は未成年者の監護を多く行っていたことも併せると、抗告人も未成年者の監護者として一定の適格を有しているといえる。ただし、前記のとおり、同居中の主たる監護者は相手方であったといえるし、平成28年5月以降の監護に関しては、後記(3)、(4)の問題がある。

(3) 抗告人は、2(4)のとおり、相手方に告げず、未成年者を連れて自宅を出て別居を始めた。抗告人は、相手方から度重なる暴言や暴力を受けていたため危害から守るとともに未成年者の健全な育成のための別居であると主張するが、前記のとおり、「配偶者からの暴力(DV)」に該当する暴言、暴力があったとは認められず、抗告人は相手方とのいさかいが続き、非難されることに耐えられず、未成年者を巻き込んで家を出たもの認められる。その行動には、未成年者の監護養育を第一に考え、夫婦間で真摯に話し合い、関係の修復に努力しようとする姿勢はみられず、別居を決めるに際して未成年者の福祉を考慮したとは認められない。その結果、未成年者に環境を激変させる負担を与えたほか、相手方との連絡を絶っていることも、未成年者の成育に極めて不適切である。抗告人が未成年者を連れて家を出た行為は、抗告人の監護者としての適格について、大いに疑問を抱かせるものであり、また、平成28年5月以降の抗告人による監護がこのような経過で開始されたものである以上、その実績や継続性を尊重することはできない。

(4) 2(6)のとおり、抗告人は近隣住民から児童相談所に通告されている。記録によれば、抗告人は児童相談所職員に対して未成年者がトイレで排泄に失敗してぐずっていたと述べた事実が認められるが、近隣に聞こえるほどの怒鳴り声をたびたび浴びせているのであり、監護者として適切な行為とは認められない。

(5) 監護の補助態勢をみると、相手方が未成年者を引き取った場合、未成年者との関係が良好であった両親と同居し、日常的に援助を受けることができるのに対し、抗告人は未成年者と2人暮らしであり、父母の家は近くにはなく、また父は医師の仕事に従事しており、父母による日常的な援助や緊急の対応は困難であり、伯父夫婦の援助もどの程度受けられるのか確かでない。

(6) 以上のとおり、未成年者の監護に関して、相手方には監護者として十分な適格があり、補助態勢も整っているのに対して、抗告人は、監護者として一定の適格を有していると認められるものの、(3)、(4)のとおりの問題があり、補助態勢も十分でないから、相手方を監護者とし、相手方が未成年者を引き取って養育するのが未成年者の福祉に適うと認められる。

4 よって、未成年者の監護者を相手方と指定し、抗告人に対して相手方に未成年者を引
渡すよう命じた原審判は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

第21民事部
裁判長裁判官 中西茂
裁判官 畠山新
裁判官 鈴木昭洋

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