札幌高等裁判所昭和51年11月12日(家月29巻5号65号)

これは同居義務についての審判例ですが,夫婦間の同居協力扶助義務は,どれも同じ民法752条で規定されていますので,同居義務に対する判断は,扶助義務でも準用できるはずです。
そして,この審判例では「審判によつて具体的な同居義務を形成する目的は、当該夫婦間の円満な婚姻関係を維持せしめ、夫婦間の妥当な協力扶助関係を醸成することにある」としているのですから,夫婦間の扶助義務の履行請求も,「円満な婚姻関係を維持せしめ、夫婦間の妥当な協力扶助関係を醸成すること」を目的としたものでなければ,立法趣旨に反した法の運用ということになります。

 

要旨
同居申立てに対する判断に当たっては、当該夫婦の現在までの婚姻共同生活の実情に基づき、婚姻維持のため当事者間において今後なさるベき協力扶助のあり方としての生活形態をその可能性とともに検討すべきであるところ、婚姻生活を通じて主として夫の妻に対する理解と配慮を欠く態度によつて醸成された精神的疾患のため精神的安定を得ない妻に対し、直ちに夫との同居を命じても、妻を一層混乱せしめて協力扶助の能力を失わしめ、むしろ婚姻生活を明確な破たんに導くおそれが強いといわなければならず、当事者間の生活形態としては当面現状が妥当であり、妻に対し夫との具体的同居義務を直ちに形成することは不相当である。

主 文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。

理 由
本件抗告の趣旨及び理由は、要するに、原審判は申立人である抗告人には相手方に対する理解や反省が乏しく、夫婦としての信頼、努力に欠けている旨判断して本件申立を却下しているが、右は抗告人と相手方との結婚生活の実態を、証拠に基づかず一方的に推察、憶測してなされたものであるから 違法として取消さるベきであるというのである。
しかし、本件記録を精査検討するに、原審が判断の理由として摘示した抗告人と相手方との結婚までの過程、結婚生活の実情、別居に至る経緯、原因及びその後の事情等原審判の理由欄1に掲記の認定事実は、抗告人提出の手紙その他の各資料を含む本件記録中の諸資料に基づいて優にこれを認めることができるから、これをここに引用すペく、原審判には抗告人指摘のごとき違法はない。
右認定事実によれば、抗告人と相手方とは婚姻中の夫婦であつて昭和四九年二月以降それぞれ肩書住居において生活しているものであるから、相手方は民法第七五二条により、妻として夫である抗告人と同居し、協力扶助すべき一般的義務あることは明らかである。
ところで、民法第七五二条は同居の具体的態容等についてはなんら触れるところがなく、夫婦間に協議が整わない場合には家庭裁判所が審判によりこれを定める(家事審判法第九条乙類第一号)ものであるが,この場合家庭裁判所は,民法第七五二条に基づく夫婦としての一般的同居請求権が存在することを前提とし、当事者双方の一切の事情を考慮して如何なる形態における同居が右条文に定める同居の趣旨に適合するかを合目的的に判断し、同居を命ずる審判によつて当事者間に当該態容における具体的同居請求権ないし同居義務を形成して、具体的婚姻生活の調整を図るものであり,したがって,右条文の趣旨に鑑み,具体的同居義務の形成が不相当の場合は審判の申立を排斥すべきものと解するのが相当である。しかして,夫婦としての一般的同居義務は,婚姻の本質に基く夫婦間の一般的協力扶助義務の内容をなし、これを支える基本的義務ということができ、民法第七五二条もかかるものとして右同居義務を規定しているものと解することができるから、審判によつて具体的な同居義務を形成する目的は、当該夫婦間の円満な婚姻関係を維持せしめ、夫婦間の妥当な協力扶助関係を醸成することにあるものというべきであるところ、具体的事情のもとにおいて、一時的に別居の状態にあることが却つて積極的に夫婦の協力扶助の目的に適合し、婚姻関係の円満な継続に必要な生活態容である場合もあり得ることはこれを是認しなければならない。したがつて同居の審判における申立の判断に当つては、当該夫婦の現在までの婚姻共同生活の実情に基づき、婚姻維持のため当事者間において今後なさるべき協力扶助のあり方としての生活形態をその可能性と共に検討してこれをなすことが必要であるというベきである。
これを本件についてみるに,前記認定事実によれば,相手方は現在,申立人との結婚生活を通じて醸成された反応性うつ病の精神的疾患を有し、肩書住居にあつて日常生活においては特段の障害はないが、申立人との結婚生活に話題が及ベば精神的に混乱し勝ちで、申立人に恐れの感情を抱いているというのであつて、相手方が右現状に至つた原因については、申立人との共同生活に対する相手方の独断的ないし一方的な期待に基づく我侭によるところもあるとはいえ、その主因はどちらかといえば同居期間中の抗告人の自己中心的、他罰的で、相手方への理解と配慮を欠く態度、言動にあつて、これが別居の要因をもなすものといわざるを得ない。そうであれば相手方の精神的安定を得ない状態において直ちに相手方に申立人との同居を命じてみても,相手方を一層混乱せしめて協力扶助の能力を喪わしめ,むしろ婚姻生活において治療安定を図らしめつつ,この間,申立人においても徒らに相手方の非を責めることなく相手方に自己の誠意と反省を理解せしめ、もつて相手方が申立人に抱く恐れの感情を緩和軽減する努力をなすことが,婚姻維持のために当面必要な申立人の協力扶助のあり方であると解される。したがって,前示第七五二条の趣旨に照らせば,当事者間の生活形態としては当面現状が妥当と認められ,相手方に対し抗告人との具体的同居義務を直ちに形成することは不相当というべきであるから,これと同旨の原審判は相当である。
よつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

裁判長裁判官 小河八十次
裁判官 落合威
裁判官 山田博

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