東京高等裁判所平成29年11月2日

この裁判例では,夫婦間の扶助義務を,「婚姻生活を維持するために必要な費用を相互に分担する義務」としています。
また,婚姻費用分担義務を検討するにあたって,夫婦の同居・協力義務を考慮に含んでいます。

 

抗告人 X
同手続代理人弁護士 安間俊樹
同 守田佑介
相手方 Y
同手続代理人弁護士 中村吉希

主文
1 原審判を取り消す。
2 本件申立てを却下する。
3 手続費用は、原審及び当審を通じて相手方の負担とする。

理由
第1 事案の概要
本件は、妻である相手方が、夫である抗告人に対し、相当額の婚姻費用の分担を求めた事案である。
原審は、平成29年8月8日、抗告人に対して、未払の婚姻費用として77万円(平成28年9月から平成29年7月までの11か月分について月額7万円により算出された未払額)及び同年8月から当事者間の同居の回復又は婚姻関係の解消に至るまで毎月末日限り月額7万円を支払うよう命じる審判(以下「原審判」という。)をしたところ、抗告人は、原審判を不服として即時抗告した。
抗告の趣旨及び理由は、別紙「抗告状」及び「抗告理由書」に記載のとおりである。

一件記録により、当裁判所の認定した事実は、次のとおり原審判を補正するほか、原審判の「理由」欄の「第2 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原審判の補正)
(1) 原審判2頁5行目の「A」の次に、「(以下「A」という。)」を加え、以下に「A」とあるを「A」に改める。
(2) 原審判2頁11行目の「手続外B」を「B」と改め、以下に「手続外B」とあるを「B」に改める。
(3) 原審判2頁18行目の次に行を改め、「(11) 相手方は、平成26年10月1日ころから、Bと共に静岡県C市(以下省略)に居住するようになった。」を加える。
(4) 原審判2頁19行目の「(11)」を「(12)」に、22行目の「(12)」を「(13)」に、24行目の「(13)」を「(14)」にそれぞれ改める。
(5) 原審判2頁20行目の「建物」の次に「以下「相手方自宅」という。」を加え、「これが」から21行目末尾までを「相手方とBは、遅くとも平成27年12月24日ころ、同市(以下省略)から相手方自宅に転居した。」に改める。
(6) 原審判3頁4行目の「(14)」を「(15)」に、6行目の「(15)」を「(16)」に、12行目の「(16)を「(17)」に、14行目の「(17)」を「(18)」に改める。
(7) 原審判3頁7行目の「が、その後、」から11行目の「告げた。」までを、「。抗告人は、相手方から、静岡県C市内で交通事故に遭った旨の電話連絡を受けた。このため、抗告人は、同日夜、改めて相手方に電話をしたところ、相手方から、事故現場はD・ICの近くであり、今は相手方自宅にいること、抗告人の仕事の邪魔にならないように、怪我が治るまでは相手方自宅で生活する旨告げられた。そのころ、相手方は、相手方自宅の近所に居住するIに対し、交通事故でむち打ちになった旨話したことがあった。」に改める。
(8) 原審判3頁12行目、14行目、4頁3行目、7行目の「標記住所地」をいずれも「相手方自宅」に改める。
(9) 原審判3頁16行目の「口論となった。」の次に行を改め、「(19) 平成28年8月ころ、Aも、相手方自宅に転居した。」を加える。
(10) 原審判3頁17行目の「(18)」を「(20)」に、20行目の「(19)」を「(21)」に、23行目の「(20)」を「(22)」に、4頁1行目の「(21)」を「(23)」に、3行目の「(22)」を「(24)」に、5行目の「(23)」を「(25)」に、12行目の「(24)」を「(26)」に改める。
(11) 原審判4頁5行目「(23)」の次に、「抗告人は、平成28年12月7日、調査会社に対し、相手方の居住状況と同居人物を確認するための調査を依頼した。」を加える。
(12) 原審判4頁14行目から5頁11行目までを削除する。
第3 当裁判所の判断
1 夫婦は、婚姻生活を維持するために必要な費用を相互に分担する義務があるから、原則として、抗告人は、相手方に対し、相手方の生活を保持させるために、婚姻費用を分担すべき義務がある。
2 抗告人は、相手方からの抗告人に対する婚姻費用分担の請求について、相手方はBと同居し、Bとの間で事実上の夫婦関係を継続しているのであって、相手方不貞行為及び相手方による夫婦の同居・協力義務違反によって、抗告人と相手方の婚姻関係は破綻しているから、信義則又は権利濫用により、相手方の抗告人に対する婚姻費用分担請求は許されない旨主張する。
これに対し、相手方は、相手方とBの間には不貞関係はなく、抗告人と相手方との別居は交通事故という偶然の事情により開始したものであって、相手方自宅にはAも同居しているところ、BはAの養父であるから、三人での同居は不自然ではなく夫婦の協力義務違反の程度が顕著であるとはいえないと主張する。

3(1) そこで検討するに、前記認定事実のとおり、相手方は、平成28年7月27日、抗告人に対し、交通事故によって負った怪我が治るまで相手方自宅に留まる旨告げて別「居を開始したことが認められるが、交通事故に関する資料は何ら提出されておらず、交通事故の存否・態様、相手方の受傷内容・程度等は全く明らかではない(怪我の程度については、相手方が、相手方自宅の近所に住む住人に、交通事故でむち打ちになったと話した程度の資料が抗告人から提出されているのみである。)。相手方が婚姻費用分担調停を申し立てた平成28年8月27日は、相手方が交通事故に遭ったと主張している日から既に1年以上も経過しているところ、相手方が、同時点においても、交通事故による怪我のために療養をしており、そのことにより抗告人との別居を継続することが合理的であることを窺わせるような資料は全く提出されていない。かえって、抗告人の依頼した調査会社の調査の結果等によれば、相手方は、日常生活を支障なく営んでいることが推認できる。
そうすると、相手方が、抗告人の仕事の邪魔にならないように相手方自宅にて療養をするために別居を開始したものであったとしても、相手方が抗告人に対して婚姻費用分担の調停を申し立てた時点において、相手方が夫婦の同居義務に違反して、抗告人との別居を継続しなければならない合理的な理由はなかったものと認められる。
(2) さらに、相手方は、前記認定事実のとおり、現在、A及びBと相手方自宅において同居していることが認められ、前記調査会社の調査結果によれば、相手方及びBは、夫婦同然の生活をしていることが認められるから、抗告人が、相手方とBが不貞関係にあると疑うことは自然なことではある。相手方が主張するようにBとの間に男女関係がなかったとしても、相手方は、本来同居すべき配偶者である抗告人と同居せずにBと同居を継続し、抗告人に対し、敢えて相手方とBが不貞関係にあるとの疑いを抱かせる行為をしているのであるから、相手方による夫婦の同居・協力義務違反の程度は著しいというべきである。
なお、Aは、遅くとも平成26年10月頃から相手方とBが同居していたところに、平成28年8月頃になって転居してきたものである上、Aは34歳で、養育等のためにAの養親であるBが同居しなければならない必要は全く認められないし、AがBと共に相手方自宅に同居していることは、抗告人が抱いている相手方とBとの不貞関係に対する疑念を払拭させる事実とはならない。
(3) 相手方は、審問期日において、Bは、Eが就職するための保証人になるために相手方自宅でEと同居していると述べるが、前記のとおり、そもそもEは相手方と同居しておらず、資料によれば、Eは平成22年6月8日に既に婚姻していることが認められ、事実に反する陳述である。「また、相手方は、抗告人と同居を始めたのは6年前からであるとも述べるが、これも前記認定のとおり事実に反する陳述である。
さらに、相手方は、Bと結婚したのはEとAを帰化させるためであり、当初から夫婦の実体はなかったとも述べるが、このことの裏付けとなる資料は見当たらない。
したがって、相手方のこれらの供述は採用できず、抗告人との別居を継続しなければならない事情については何ら見出すことができない。
(4) 以上のとおり、抗告人と相手方の同居期間は、婚姻前の同居期間を通算しても3か月間に満たないものであるのに対し、相手方とBの同居期間は、抗告人と相手方の婚姻後に限っても既に1年3か月以上に及んでいるところ、相手方には、夫である抗告人と同居せずBと同居することに何ら合理的な事情が存しないこと、抗告人も既に相手方との同居を望んでいないこと(平成29年8月31日付けの抗告人作成の陳述書)からすれば、抗告人と相手方との夫婦関係は既に破綻しているものといわざるを得ない。そして、その主たる原因は、夫婦の同居・協力義務に違反しBとの同居を継続している相手方にあると認められるから、相手方の抗告人に対する婚姻費用分担の請求は、信義則に違反し権利の濫用であって許されるものではない。
4 よって、原審判を取り消し、本件申立てを却下することとし、主文のとおり決定す
る。
第23民事部
裁判長裁判官 垣内正
裁判官 内堀宏達
裁判官 小川理津子

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